こんなにも花火が美しいなんて――天体のメソッド第5話。

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なぜこんなにも天体のメソッドは刺さるのか。この作品が見られて本当に良かったと改めて思った第5話でした。


冒頭、アルバムを抱きしめる乃々香。大好きな母との思い出が詰まった大切な大切なアルバムだってことが伝わってくる。このアルバムをあとで乃々香はノエルに貸すけど、それをノエルが柚季に見せて柚季の誤解が解けるわけで、1話の時点のように乃々香がノエルのことを疑うというか少しでも不信感を持っていればこんな大事なアルバムを貸すことはなく、全ては台無しになっていただろうから、思い返すとその綱渡りぶりにぞっとする。
この細い細い糸がどこかで切れてしまえば乃々香は柚季を救う事はできなかった上に、円盤の花火も映らずに汐音にも更に嘘つきの烙印を押されてしまっていたわけで……。


ノエルが天文台の上で鼻歌を歌っているところから、ベッドで鼻歌を歌う乃々香に切り替わるシーン。
ノエルは乃々香のアルバムが見られてごきげんで、一方乃々香は期限が明日に迫って、刀折れ矢尽き放心状態って場面は、3話の幼稚園跡でのシーンを連想させる。あの場面でも同じ鼻歌を歌っていたこの二人だけど、あの時もノエルは乃々香を見つけて喜んでて、乃々香は悲しさや寂しさで塞ぎこんでいた。
同じ対比が物悲しい。


この5話に限った話ではないけど、この作品、仕草や表情、喋りに、その裏にある気持ち、思っていることが繊細に、それでいてありありと表現されていてすごいいいと思う。

ベッドでアルバムを眺めるシーン。
アルバムの内容ではなく乃々香の顔がひたすら映されるだけで動きも台詞もないのだけど、そのおかげで穏やかに、それでいて豊かに変わる乃々香の表情に引き込まれる。そして7年前の花火の写真を見て、乃々香はその再現を決意するのだけど、仕草からその決意の固さがしっかりと感じられる。

柚季を必死に呼び止めて、叫ぶように約束を宣言する乃々香の声。ただ柚季のご機嫌取りがしたいなんて軽いものじゃなくて、もっと遥かに重い意味を持った決意を、ただただまっすぐに柚季にぶつけようとする乃々香の一途さが感じられる。

バスターミナルでの柚季の「花火を上げれば、私が喜ぶとでも思った?」っていう台詞。もし乃々香が花火を上げようとする理由が柚季のためだったら、この一言は乃々香を傷つけるだろうし、そういう意図が込められているのは柚季だって自覚して、わざと吐いた台詞なはず。かといって、柚季は意地悪な言葉で相手を傷つけるのを好んでやるような悪い子かというと決してそうではなくて、むしろ逆で、こんなこと言っちゃいけない、嫌な奴になっちゃう、けど言わずにはいられない……っていう葛藤や苛立ち、諦めが、あの嘲りと諦め、悲しさが入り混じった表情からひしひしと伝わってくる。

茶店で、「乃々香が嘘つきだからよ」と「大嘘つき。」の二言の間でふっと変わる汐音の表情も、ほんの少しの表情変化なのに、乃々香に対する相反する気持ちが鮮やかに描き出されていて、とてもいい。


汐音は花火が上がらないだろうことを少し離れたところから見ていて、乃々香にまた新たに嘘付きの烙印を押していたけれど、最後の円盤に映った花火にはどういう評価をしたんだろうか。
本物の花火を上げられなかったのは確かだし、乃々香が円盤に映したんじゃないから嘘付き判定はそのままなのか、それとも、形は少し違えども約束を守ったんだって評価を改めてくれたのか。
これをきっかけにして、乃々香と汐音、二人の和解へ少しでも近づいていけばいいなぁとは思うけど、半ば八つ当たりだった柚季とは違って汐音は、ひたすら乃々香を拒み続けても無理はないだけの仕打ちを受けたのだから、その頑なさが緩まなくても仕方ないかなぁとも思う。


あと、ずっと柚季を縛っていたものが解けて彼女が円盤を目の敵にする理由はなくなったんだろうと思うのだけど、これからあの5人と円盤の関わりはどうなっていくのだろう。柚季にとっては単なるオブジェの一種に成り下がったかもしれないけど、こはるにとっては?
あれのお陰でいろんな観光客と話せて楽しいとか、悪い印象を持ってるわけじゃないんだろうけど、看板が民芸御殿から変わった時やおそらくお気に入りであっただろう"かいじゅうさん"の顔出し看板が見向きもされなかった時の寂しそうな様子からすると、複雑な感情を抱いているような気がする。あの描写は、こはるにとっても円盤が変えてしまったことはあるから柚季の気持ちもわかるのに、柚季はその事を分かってない、という事を表したものなのか、それともこれからこはるが円盤をどけたいと思い始める伏線なのか。前者なら問題はないけど後者なら拙いことになりそう。
汐音にとっては、乃々香との最後の思い出であり、乃々香の裏切りの象徴でもあるけど、汐音は円盤自体には特に執着はないようなので、特に何もないかなあ。


それにしても、役場で、「今日は別のお願いがあって来ました」と宣言する乃々香の凛々しいこと!
もうほんとゾクゾクしました。なんでこの子はこんなにかっこいいんだろうかと。


結局、この回の間ずっととぎれとぎれに泣いていたような気がするんだけど、最後の乃々香の胸で泣く柚季の姿はそれに輪をかけて涙が止まらなくてどうしようもなかった。特に、この7年間ずっと「あいつ」だったり「バカ湊太」だったりした兄の呼びかたが「お兄ちゃん」に戻り、ようやく柚季は救われたのだと感じて。
その後で線香花火をする4人の他愛もない会話で、とうとうこの4人は元通りになっていくんだろうなって心が暖かくなって、泣いていたのも落ち着きつつ、めでたしめでたしかな、と思っていたら……。
円盤が花火を映しだしたのを眼にして、落ち着きかけてた涙が一気にまた溢れてきて、何が起こったのかわからなかった。
今まで泣いたのって、悲しいとか、切ないとか、まあそりゃ泣きますよねって自分でもわかってる場面でしかなくて、今回のは全く異質で、戸惑いが残った。だって、円盤に映しだされた花火はただただ美しいもので、決して切なくも悲しくもなくて、なのに何故か涙が溢れて……。
乃々香の叶わないはずだった願いが叶ったから?
柚季が救われたから?
柚季が救われると同時に、湊太やこはるも救われたから?
どれもしっくり来なくて、何度も見返した今でも理由はやっぱりよくわからない。