長い旅の終わりと、「はじまりのそらから」の、新しい旅――天体のメソッド13話。

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乃々香は強くあれたのは、友達があってこそのこと。乃々香は汐音を寂しがり屋と評していたけど、乃々香も一人では立っていられない。冒頭、汐音が来てくれたからこそ乃々香は立ち直れたし、汐音が言葉を重ねて背中を押してくれなければ、乃々香はノエルの存在を信じ直すだけで立ち止まってしまったはず。そんな乃々香が、とうとう汐音とかつてのように、分かつことの出来ない二人で一つに戻れたあの湖畔のシーン、本当に良かった。7年越しの再会、いや、ひょっとすると円盤の町と円盤のない町での合計、14年分の旅の終着点かもしれない。語らう二人の姿が暖かくて、甘くて、もうこの二人が道を分かつことは永遠にないんだって分かって、長い長い旅の終わりにふさわしい光景だと感じた。
また、桟橋のシーン。今まではみんなが動き出すのは、乃々香の言葉が決め手だった。けど今回は違った。「みんなで、円盤を呼ぼう」という乃々香の台詞はあれども、今回はそれが決め手ではない。乃々香がいつもやっていた、皆の背中を押す役割を、今度は汐音が果たす。雄弁に、皆が思っていること、けれど一歩踏み出せないことを、語り、背中を押す。引っ込み思案だった汐音が、乃々香にもらったもので大きく変われたことを象徴しているよう。乃々香にとっても、ただ単に助けられたよりもずっとほっと出来たんじゃないかな、と思う。
4話冒頭、身も心もボロボロになった乃々香にとどめを刺すような捨て台詞を投げつけていた汐音が、こうまで乃々香をひたすら信じ支える唯一無二の親友に戻れたのだから、乃々香、本当によく頑張ったよね。もちろん汐音が乃々香を信じていたのも大きいのだけど、乃々香が折れてしまわずに頑張ったから汐音も救われることができた。本当に良かった。


12話の記事で書いたとおり、円盤の町の記憶は乃々香の夢という疑惑があった。汐音に助けられる直前、乃々香の心が折れてしまいそうだったのはその疑念がやたらと説得力を持って彼女を苛んでいたからだろうけど、それは汐音が同じ記憶を持っていたことによって払拭された。冒頭、「夢じゃ、なかった」と一言つぶやいてへたりこむ乃々香の姿、それまで彼女が抱えていた重荷、辛さが感じられてズキッと心が痛んだと同時に、それらからやっと解放されたんだって安堵が広がって、安心した。
そして、たちの悪い疑念はその時点で払拭されたのだから、それ以上に否定材料は必要ではないのだけど、今回乃々香が連れ帰った汐音への父の行動も、あの町の実在の裏付けになっていてうれしかった。
円盤の町での出来事、つまり、"最初の"町への帰還後、父が料理をしようとしたのはオリエンテーリングの次の日。しかも目玉焼きという単純なもの。それが今回は、始業式の日。内容も、ずっと複雑。次にはオムライスまで。焦がしたりとロクな事してないとはいえ、円盤の町での父よりは料理の上達が早いように思える。これは、意識には上らずとも円盤の町での経験が残っていて、それが円盤のない町でも影響していたんじゃないか。つまりこれも、円盤の町が実在した、乃々香の夢なんかじゃなかったっていう裏付けだと思う。
乃々香はそれに気づいていたのかな。父にあきれつつ、汐音との幸せな時間を過ごしているのだから、そんなことまで気は回らなかったかもしれない。別に、そこに気づかなくとも汐音の記憶の存在だけで十分だろうから、良いのだけど。


円盤の町では柚季の行動を苦々しく思ったり諫めたりしていた湊太が、円盤のない町では乃々香の行動にいらだって諫めようとするとか、前回に引き続き以前の柚季の立場と今の乃々香の立場が重なるんですよね。突っ走る柚季を助けようとする乃々香の関係が、ノエルと会いたい一心の乃々香を支える汐音と重なる。
柚希は乃々香が諦めなかったからこそ救われた。じゃあ、今度も大丈夫。汐音はもう二度と乃々香から離れていくはずないのだから。
12話はホントどうしようかと思ったけれど、今回は安心して見られた。本当に、乃々香はいい人に巡り会えたと思う。本人も言っていたけれど、汐音にもし出会えなければ後悔どころの騒ぎではなかったよね、と思う。しかもその場合は何かを失ったことにすら気づかなかっただろうから、尚更。
自分が失ったものにも気づけず、おぼろげな、母への負い目、自責の念だけを抱え、どことなく薄っぺらい人生を送る羽目になったのだろうとしか想像できず、ぞっとする。
円盤の町で乃々香が汐音を救った時、汐音もまた乃々香を救ったんだ。そしてそれは、円盤のない町でも繰り返された。


特殊エンディングに突入した時は少し驚いたけど、よく考えたらなぜ通常じゃなかったのかわかったように思う。
通常エンディングで描かれているのは、幼き頃の願いに導かれて5人が湖畔に集まり、再び再会できるということ。
これは11話で達成され、12話で一度壊れるも、再び13話で達成された話。
だからこそ13話では、それを繰り返すことはしなかった。代わりに、再び一つになった5人が、最後のピースになるノエルを探すこととなる。これは、新しい旅の始まりにふさわしいな、と思った。

この物語は、徹底して"奇跡"だの"不思議なこと"が排除された物語で、唯一のそれは円盤の出現だとずっと思ってた。しかしそれすらも本当はなかった。いや、円盤は来たしノエルも本当にいるのだけど、それは円盤がある世界のことで、円盤のない世界では何も奇跡は起こらなかった。
そんな中で、最後に、唯一起こった奇跡。 一面のひまわりの中で、ひまわりみたいな女の子が、最後になくしたものを再びみつける。それは、奇跡が一つだけ起こるならこれしかない、という感じで、これ以上の結末はないだろうな、と思った。


この作品を観られて、本当に良かったと思う。ここまで好きになれる作品は、最初で最後じゃないかな、とさえ思った。