繋いだ手、繋げなかった手――天体のメソッド第11話。

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乃々香は、やっぱり強くて、優しい子だなぁと、改めてそう感じられたこの回。

乃々香にとって、ノエルを失うことは耐えがたく悲しいことだっていうのはわかっているのに、乃々香は自分が悲しい思いをすることになっても、ノエルの願いを大切にしたいと願ったんですよね。大切な人を失うのはこれで2度め、前は悲しみに押しつぶされて全てを失ってしまったのだから、また同じような悲しみを背負うのは凄く怖いはずなのに、それでもノエルの願いを叶えたいと願った。それは、皆を再び一つにしたいという思いもあったにせよ、乃々香のノエルへの優しさが大部分なんだと思う。
その決意は、またみんなを動かしてゆくんですよね。

けれど、何度言ったかわからないけどやっぱり残酷だなあと、今回も思った。そう思ったのは、最後の最後でノエルが別れの悲しさに気づいてしまったところ。乃々香が、ノエルのにっこりを叶えたいと言っていたように、あのまま笑顔で別れられるならってお別れを決意した面も多分にあったのだと思うから、あの時ああなってしまったことは、残された5人に深い後悔を植え付けてしまったんじゃないかなぁと感じた。
中でもやっぱり乃々香がかわいそう。乃々香が一番好きだから一番気になるって言うのもあるんだろうけど、それを割り引いてもやっぱり。
最後の最後で、乃々香が伸ばした手は届かなかった。あの時手を取れていたら、ひょっとしたら別れずに済んだとか、そうじゃなくてももうしばらく一緒に居られたのでは、とか、後悔してしまうと思う。ノエルが去ってしまったのだって、自分の決意が引き起こしたことだっていうのも相まって、人一倍後悔してしまうんじゃないかなと思う。だから、「本当にこれで良かったの?」と言わずにはいられない。


これ以外には、誰もが不幸になる道しかなかった。そんなことはわかってる。だけど、だからこそ、避けようがないお別れが待ち構えていた運命が、残酷だなあと改めて思う。


あと、乃々香は自分が笑顔じゃないといけない、泣いちゃダメ、って言ってたけど、あの場面ではそりゃあ泣きたいだろうし、それを押さえつけて笑顔でいようとする彼女の姿は、やっぱり痛々しかった。泣くことは、母との約束を破ることで、だから泣いてしまうと罪悪感を感じるし、泣かずにいられれば嬉しい、乃々香はそう思っているのだろうけど、それじゃまるで母との約束が何かの呪縛のようで。母も、自分の言葉が娘の心を縛ってしまうなんて、望んではいなかっただろうと思うのだけれど。自分の気持ちにある意味素直ではいられないというのは、どこかしら汐音の自己犠牲と似通っているように感じて、見ていて辛かった。
乃々香は汐音が自分の気持に素直になれるように手を差し伸べたけど、乃々香自身がそうできるようになる時は、果たして来るのだろうか?

出口が見えない闇の中で――天体のメソッド第10話。

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9話でつらいって言ってたのが甘かったって思い知らされた。もっとつらかったこの10話。


乃々香を花で表すならひまわりなんですよね。ピンナップとかで持っていることも多いし、色使いも乃々香の髪と似ているし、受ける印象も近い。冒頭、円盤の見える場所へ急ぐ乃々香たちが脇を通り過ぎたひまわり畑が全て枯れているのが、もちろん季節を考えると当然なんだけど、それでもこの後乃々香にのしかかる重い運命を暗示しているようだった。


汐音が自分の考えていることを打ち明ける気になったのは、きっと乃々香の一途な呼びかけに心動かされたからなのに、その打ち明け話が皆をバラバラにし、湊太や柚希、こはるまでも乃々香を避けるようになってしまったのって、それこそ「どうして……」としか言いようがない。さらに言うと、この打ち明け話によって、乃々香がまたもや重要なことを隠していたことになってしまった。柚季は、「ノエルのことで隠し事はなしにして」と言っていたのに、乃々香はノエルの消失を言い出せなかった。これは柚季には裏切りに感じられても仕方ない、少なくとも乃々香自身そう思っているんじゃないだろうか。
汐音は帰りの車中で苦い顔をしていたけれど、あれはきっと、何かを変えようとして打ち明けたのに何も変わらなかったという無力感、いや、たしかに変わりはしたけど、それは皆がバラバラになってしまったという変わり方で、その前に「誰も失いたくない」と言っていた乃々香の思いとは真逆に行ってしまったことへの後悔だったのかな、と思った。


願いが叶うとノエルが消えることに対して、汐音、柚希、湊太は成就を妨げれば良いって結論に達し、こはるはただ立ち尽くしてしまい、乃々香だけがノエルを失わずに願いも叶う方法を探そうとしてる。そんな中でノエルは、最後まで希望を捨てようとしない乃々香に真っ先に釘を刺したんですよね。お別れは避けようがないのだと。ノエルには間違いなく悪気はないし、突き放そうという意図もないのだろうけど、相変わらず残酷だなあと思う。


前に、乃々香はほとんど泣かない強い子だと思ったのだけど、振り返ってみればその乃々香が3話連続で泣いてしまってる。それに、母に救いを求めるような、「どうすればいいの?」というような思いの吐露までも。
乃々香はことあるごとに母を思いながらも、「私は大丈夫、お母さんとの約束もちゃんと守ってるよ。だから、心配はしないで。」とでも言うかのように気丈に振るまい、自分で何とかしようと頑張ってきたのに、とうとう弱音を抑えきれなくなってるみたいで、いくら頑張り屋さんな乃々香でも、これ以上の酷な出来事には耐えられなさそうにいっぱいいっぱいになっていて、痛々しくて仕方がない。


7年前、最愛の母を失くし、道連れに大切な友達も全て失った乃々香が、また再び大切な人を失おうとしている。
ようやく願いを、友達を、取り戻したというのに、今度はノエルを失うことで、また全てを失ってしまうのではないだろうか?


ほんと、運命は乃々香に厳しすぎる……。

二人で幸せになってほしいのに――天体のメソッド第9話。

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見返すのを躊躇するくらいつらい回。あのきつかった3話よりもずっとつらい。


乃々香と汐音は二人でひとつ、なのに。


汐音が引っ越し準備を早々に始めてるということは、もしこの後何が奇跡でも起こって、ノエルの問題が解決したにしても、乃々香と汐音が引き離されてしまうのは確定してしまったはず。だって、動き出したらそうそう止めようがないだろうし。やっぱりやめた、街に残る、なんて訳にはいかないだろうから。
汐音の苦悩はどれほどのものだったのだろうか。乃々香に冷たく辛辣な言葉を投げつけて自分を嫌ってもらおうとしながらも、見つかった時の一瞬の笑顔や、力なく落とされた右手、溢れる涙からは、本心は真逆なんだって痛いほどよくわかる。乃々香を拒絶するたび、彼女を傷つけると同時に自分も傷ついていく。けれどそうするしかないなんて。

乃々香は乃々香で、ひたすら健気で。汐音が来ると信じて北美祭の準備を頑張るのは、柚季の時と同じですよね。けれど、汐音にとっての問題は乃々香の頑張りでは解決しないどころか、乃々香の努力が実を結べば汐音が考える最悪の事態になってしまう。
そうとは知らずに健気に準備を続けて、信じ続ける乃々香の真っ直ぐさは、それが純粋なだけに見ていてつらすぎた。
そしてやはり、乃々香は自分を責めてしまうんですよね。冒頭でも、湊太の問いに「ううん、私のせい」と。汐音に来ない理由と聞くときも、やはり「私を許せないから?」と。汐音の拒絶の理由はそうじゃなくて、逆なのに。乃々香は友達は信じられても、やはりどこか、自分を信じられないんですよね。それはやはり、思い返すことをやめてしまった過去を負い目に感じていることから来ているのだろうか。

乃々香は汐音を諦められるはずがないから必死に追いすがるしかなくて、そんな一途な彼女に汐音は冷たい拒絶を返して揺らぎそうになる自分の決意を守る他なくて、そうされても乃々香は退けるわけもなく汐音に語りかけ続けるしかなくて……と、お互いに傷つけ合うしかない堂々巡り。

なんて残酷なんだろうか。

挙句の果てに、ノエルがあんなことになって。汐音はまさか、守ろうとした二人を両方共守れずに、ただ失うだけになってしまうのだろうか?
そんなの、ひどすきる。

7年越しの願いの成就が、なぜこんなにも残酷なんだろうか――天体のメソッド第8話。

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全編を通じて美しい映像の本作ですが、教室いっぱいに広がる星空のシーンはまた、それに輪を掛けて美しい。そんな舞台に包まれて紡ぎ出される7年越しの二人の想いもまた、切なく美しかった。
そして、こんなに嬉しくて暖かい、二人の『再会』。湊太が「いつもべったり」と評していたけれど、その通りの、乃々香と汐音は二人でひとつ、分けられるはずのない存在で、その上乃々香にとって汐音は母が遺した忘れ形見のようなもので、それなのに道を分かってしまった二人が、とうとう心通わせられたんだから。


なのに。


汐音は気づいてしまったんですよね。願いが叶うことへの代償に。
柚季が指摘してた、円盤が来てから流星群は見えていないという事実。
ノエルが告げた、今年はよく見えるという予言。
同じくノエルの、自分は円盤そのものだという言葉。
この3つから、何が起こるのかは明白で。それが願いの成就の代償だということも、ノエルの言葉からも導き出せるし、幼少の頃『円盤さんの本』を持っていた汐音なら、円盤が訪れたあと何をして、その後どうなるのかをよく知っていたはず。
それ故彼女は、ノエルを守るため、長い間待ち焦がれて、とうとう取り戻した乃々香を再び手放すしかなかった。もはやノエルは乃々香と同じくらい大切な存在なのだから。それに汐音は、ノエルが乃々香にとっても大切な存在だということを知ってる。だから、ノエルを守ることで、乃々香が再び大切な人を失わなくて済むようにしようとしているんだと思う。
こんなことなら、あなたが、私の知っている乃々香じゃなかったら良かったのに。
そう汐音は思ったのではないだろうか。


それは、悲壮な決断。
なんて残酷なんだろうか。


ところで。
今回乃々香は泣いていたけれど、この子が泣くのってほとんどなかったように思う。1話でノエルに謝りながら泣いていた以来で、他には7話で泣きそうなのをこらえていたシーンしかなかったはず。

今の乃々香が泣くのは、決まって自分を責める感情が混じっている時で、ただ悲しいとか切ないとか、それだけでは涙ひとつこぼさないように見える。1話ではノエルを傷つけてしまったという後悔があったし、7話では母に対する負い目と、思い出すことをやめた自分を責めていた。8話では汐音を傷つけて、それをも忘れてしまったことを悔いて、そんな自分が酷いと思っている。
ただ悲しいだけじゃもう乃々香は泣けないんだろうか。幼少の頃はそうでもなかったように見えるから、やはり母を亡くしたことが彼女を変えてしまったのか。その時覚えた、悲しみを押さえつけることをやっぱりやめられないんだろうか。それは却って自分自身を傷つけるのに、いろいろ無理していそうで、心配になる。


思い過ごしなら、いいのだけれど。

もう言葉など見つからなくて――天体のメソッド第7話。

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最初から最後まで、全てが心を打って。
もはや、何と書こうともこの話を汚しそうな気がして、書きようがなかった。
このエピソードで感じたすべてのこと、澄んだガラス細工のように壊れやすい、繊細で綺麗な、切なさと痛み、暖かさと安堵が入り混じったこの想いが、汚れないうちに、このまま消えてしまいたい、そんなようにすら感じた。

凍りついた心も、いつかは融けるのだろうか――天体のメソッド第6話。

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ほのぼの温泉回みたいな顔して、結構そこかしこで重いですよ今回も。まあそれがいいんですけど。


ノエルを誘おうとした時に汐音に先約があると告げられた時の乃々香は寂しそうな表情をしていたけど、単にアテが外れたって感じではなかった。
乃々香にとってはノエルに先約があった事自体よりも、その相手が汐音だった事に切なさを感じていたんだと思う。どれだけ強く望んでも汐音は自分には好意を向けてくれない、そしてそれは自分がかつて冒した過ちのせいで、なんとかしたいのに糸口もつかめない、そんな状態なのにノエルはいとも簡単に汐音の好意を受けつつある。そう思うと、自分の無力さややってしまった事の大きさを再確認させられて、切なさを隠せなくなかった、そんな感じなのかなと思う。


柚季の「ありがとう」という言葉で乃々香は眠れなくなって、何か考えこむような表情で外を眺めていたけど、どういう心境だったんだろう。
仲直りはできたけど、それは7年前の自分に原因があって、ありがとうを言われるような資格なんてない……とか、そんなこと考えてたんじゃないだろうか。自分に厳しい乃々香のことだから。もしくは、未だに拒絶され続けている汐音のことを考えていたんだろうか。


「いい娘だ」とほめる柚季に乃々香は「どうかな」と返した。
ただの謙遜ならいいけど、なんかそうじゃない気がする。父に対しては文句のつけようがないいい娘だと思うのだけど、ひょっとすると母に対してはそうじゃなかった、少なくとも乃々香自身はそう思ってるのかもしれない。
父が出してきた母親の写真への反応も、乃々香は母親に負い目か何かを感じているんじゃないかと思わせられる。一体何があったんだろう……。


ノエルの「友達」という言葉に汐音は声を荒らげていたけど、その自分に言いきかせるような口調と、幼子に対して大人げない拒絶をしてしまう態度から、彼女が抱えている傷の深さが想像できて、切なくなった。
ノエルと仲良くなって、また「友達」ができてしまうのが怖くてたまらないのだと思う。7年間拒み続けて、ずっと想い続けてきた乃々香と再会してしまっても、やはり必死に拒絶して、2度と友達など作るものかと思っていたのに、ノエルはずかずかと汐音の心に踏み込んできて、居座ろうとして、しかもそのとおりになってしまいそうなのだから。
また乃々香のように自分を捨てていくのではないか、もう二度と体験したくない、そんな原因をまた作ってしまうなんて許せない……と。


それにしても、柚季・乃々香ペアとノエル・汐音ペアがぎりぎりのところですれ違い続けるのはヒヤヒヤして、ホント心臓に悪かった。あそこで乃々香と汐音が出会ってしまったら、汐音は乃々香に冷たい態度を取ってしまわずにはいられないだろうし、そうなったら二人ともまた傷つくだろうから。


ところで、乃々香の願いがもしも、7年前のあの頃のように5人が仲良く居られますように、みたいなのだったとしたら、ノエルはそれを実現しつつあるのかもしれない。
本人は自覚なさそうだけど、前回、柚季に乃々香のアルバムを渡して桟橋に行かせたのと同じように、今回は頑なに殻に閉じこもる汐音の心を融かしているのだし。

こんなにも花火が美しいなんて――天体のメソッド第5話。

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なぜこんなにも天体のメソッドは刺さるのか。この作品が見られて本当に良かったと改めて思った第5話でした。


冒頭、アルバムを抱きしめる乃々香。大好きな母との思い出が詰まった大切な大切なアルバムだってことが伝わってくる。このアルバムをあとで乃々香はノエルに貸すけど、それをノエルが柚季に見せて柚季の誤解が解けるわけで、1話の時点のように乃々香がノエルのことを疑うというか少しでも不信感を持っていればこんな大事なアルバムを貸すことはなく、全ては台無しになっていただろうから、思い返すとその綱渡りぶりにぞっとする。
この細い細い糸がどこかで切れてしまえば乃々香は柚季を救う事はできなかった上に、円盤の花火も映らずに汐音にも更に嘘つきの烙印を押されてしまっていたわけで……。


ノエルが天文台の上で鼻歌を歌っているところから、ベッドで鼻歌を歌う乃々香に切り替わるシーン。
ノエルは乃々香のアルバムが見られてごきげんで、一方乃々香は期限が明日に迫って、刀折れ矢尽き放心状態って場面は、3話の幼稚園跡でのシーンを連想させる。あの場面でも同じ鼻歌を歌っていたこの二人だけど、あの時もノエルは乃々香を見つけて喜んでて、乃々香は悲しさや寂しさで塞ぎこんでいた。
同じ対比が物悲しい。


この5話に限った話ではないけど、この作品、仕草や表情、喋りに、その裏にある気持ち、思っていることが繊細に、それでいてありありと表現されていてすごいいいと思う。

ベッドでアルバムを眺めるシーン。
アルバムの内容ではなく乃々香の顔がひたすら映されるだけで動きも台詞もないのだけど、そのおかげで穏やかに、それでいて豊かに変わる乃々香の表情に引き込まれる。そして7年前の花火の写真を見て、乃々香はその再現を決意するのだけど、仕草からその決意の固さがしっかりと感じられる。

柚季を必死に呼び止めて、叫ぶように約束を宣言する乃々香の声。ただ柚季のご機嫌取りがしたいなんて軽いものじゃなくて、もっと遥かに重い意味を持った決意を、ただただまっすぐに柚季にぶつけようとする乃々香の一途さが感じられる。

バスターミナルでの柚季の「花火を上げれば、私が喜ぶとでも思った?」っていう台詞。もし乃々香が花火を上げようとする理由が柚季のためだったら、この一言は乃々香を傷つけるだろうし、そういう意図が込められているのは柚季だって自覚して、わざと吐いた台詞なはず。かといって、柚季は意地悪な言葉で相手を傷つけるのを好んでやるような悪い子かというと決してそうではなくて、むしろ逆で、こんなこと言っちゃいけない、嫌な奴になっちゃう、けど言わずにはいられない……っていう葛藤や苛立ち、諦めが、あの嘲りと諦め、悲しさが入り混じった表情からひしひしと伝わってくる。

茶店で、「乃々香が嘘つきだからよ」と「大嘘つき。」の二言の間でふっと変わる汐音の表情も、ほんの少しの表情変化なのに、乃々香に対する相反する気持ちが鮮やかに描き出されていて、とてもいい。


汐音は花火が上がらないだろうことを少し離れたところから見ていて、乃々香にまた新たに嘘付きの烙印を押していたけれど、最後の円盤に映った花火にはどういう評価をしたんだろうか。
本物の花火を上げられなかったのは確かだし、乃々香が円盤に映したんじゃないから嘘付き判定はそのままなのか、それとも、形は少し違えども約束を守ったんだって評価を改めてくれたのか。
これをきっかけにして、乃々香と汐音、二人の和解へ少しでも近づいていけばいいなぁとは思うけど、半ば八つ当たりだった柚季とは違って汐音は、ひたすら乃々香を拒み続けても無理はないだけの仕打ちを受けたのだから、その頑なさが緩まなくても仕方ないかなぁとも思う。


あと、ずっと柚季を縛っていたものが解けて彼女が円盤を目の敵にする理由はなくなったんだろうと思うのだけど、これからあの5人と円盤の関わりはどうなっていくのだろう。柚季にとっては単なるオブジェの一種に成り下がったかもしれないけど、こはるにとっては?
あれのお陰でいろんな観光客と話せて楽しいとか、悪い印象を持ってるわけじゃないんだろうけど、看板が民芸御殿から変わった時やおそらくお気に入りであっただろう"かいじゅうさん"の顔出し看板が見向きもされなかった時の寂しそうな様子からすると、複雑な感情を抱いているような気がする。あの描写は、こはるにとっても円盤が変えてしまったことはあるから柚季の気持ちもわかるのに、柚季はその事を分かってない、という事を表したものなのか、それともこれからこはるが円盤をどけたいと思い始める伏線なのか。前者なら問題はないけど後者なら拙いことになりそう。
汐音にとっては、乃々香との最後の思い出であり、乃々香の裏切りの象徴でもあるけど、汐音は円盤自体には特に執着はないようなので、特に何もないかなあ。


それにしても、役場で、「今日は別のお願いがあって来ました」と宣言する乃々香の凛々しいこと!
もうほんとゾクゾクしました。なんでこの子はこんなにかっこいいんだろうかと。


結局、この回の間ずっととぎれとぎれに泣いていたような気がするんだけど、最後の乃々香の胸で泣く柚季の姿はそれに輪をかけて涙が止まらなくてどうしようもなかった。特に、この7年間ずっと「あいつ」だったり「バカ湊太」だったりした兄の呼びかたが「お兄ちゃん」に戻り、ようやく柚季は救われたのだと感じて。
その後で線香花火をする4人の他愛もない会話で、とうとうこの4人は元通りになっていくんだろうなって心が暖かくなって、泣いていたのも落ち着きつつ、めでたしめでたしかな、と思っていたら……。
円盤が花火を映しだしたのを眼にして、落ち着きかけてた涙が一気にまた溢れてきて、何が起こったのかわからなかった。
今まで泣いたのって、悲しいとか、切ないとか、まあそりゃ泣きますよねって自分でもわかってる場面でしかなくて、今回のは全く異質で、戸惑いが残った。だって、円盤に映しだされた花火はただただ美しいもので、決して切なくも悲しくもなくて、なのに何故か涙が溢れて……。
乃々香の叶わないはずだった願いが叶ったから?
柚季が救われたから?
柚季が救われると同時に、湊太やこはるも救われたから?
どれもしっくり来なくて、何度も見返した今でも理由はやっぱりよくわからない。